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成立した遺産分割協議でも、相続人全員が合意すれば、新たに協議し直す(やり直す)ことができます。協議は共同相続人の全員で行うものなので、一部の人だけでは決められません。協議のときに錯誤・詐欺・強迫があったなら、民法第95条・第96条により意思表示を取り消すことができ、取り消せる期間は、追認できる時から5年間、行為の時から20年です(第126条)。相続人の1人がすでに亡くなっているときは、取消権は承継人が持ち(第120条第2項)、全員の合意でやり直すなら、その人の相続人が当事者に加わります。なお、全員が合意してやり直しても、一度取得した財産が別の人に移る形になるため、贈与や譲渡として税金がかかる場合があります。この記事では、民法の条文で「やり直せるか」を整理します。税金と登記は遺産分割協議をやり直すと税金と登記はどうなるかにまとめました。
成立した協議をやり直す方法は、大きく3つあります。どれを使うかで、必要なことが違います。
遺産分割協議をやり直す・取り消す3つの方法
| 方法 | 使える場面 | 必要なこと | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 相続人全員の合意で、新たに協議し直す | 理由は問わない。分け方を変えたい、事情が変わった、など | 相続人全員の合意。一部の人だけでは成り立たない | 民法第907条第1項(共同相続人は、いつでも、その協議で遺産の全部又は一部の分割をすることができる)、国税庁 質疑応答事例(遺産分割は全ての相続人等の協議などで行う) |
| 錯誤を理由に取り消す | 遺産の範囲や価額、書面の内容などを思い違えて合意した | 錯誤が重要なものであること。事情を思い違えた場合は、その事情が基礎とされていることが表示されていたこと。重大な過失がないこと | 民法第95条 |
| 詐欺・強迫を理由に取り消す | だまされた、脅されて合意した | 取消しの意思表示。第三者に詐欺をされた場合は、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限る | 民法第96条 |
e-Gov法令検索で民法を確かめた範囲では、成立した遺産分割協議を合意で解く手続きそのものを定めた条文は見当たりませんでした。全員の合意でやり直す場合は、第907条の協議として新たに行う形になります。
取り消したときの効果は、取り消された行為が初めから無効だったものとみなされる、というものです(民法第121条)。一方、遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じますが、第三者の権利を害することはできません(民法第909条)。たとえば、分割のあとに不動産を取得した相続人が、その不動産を第三者に売ったり、抵当権を付けたりしていた場合、やり直しや取り消しをしても、第三者の権利は動かせません。
自分に近い行から見てください。右の列は、そのあとに読む記事です。
状況ごとの、先に確かめること
| あなたの状況 | 先に確かめること | 次に読む記事 |
|---|---|---|
| 全員が、分け方を変えることに賛成している | 全員の合意で新たに協議する。登記に使う協議書には、相続人全員が実印を押し、印鑑証明書を添付する(法務局の登記手続ハンドブック)。分け方を変えると税金が出る場合がある | やり直しの税金と登記、遺産分割協議書の書き方 |
| 相続税の申告の前 | 申告書は、申告する時点の分け方で作る。やり直しで税金が変わるかを、申告の前に確かめられる時期 | やり直しの税金と登記、未分割のまま申告する方法 |
| 相続税を申告したあと | 申告した税額が変わるか。更正の請求や修正申告になる場合がある | 更正の請求の書き方、申告を間違えたとき(修正申告) |
| 相続登記をしたあと | 協議の内容を変えると、登記も直す場面が出る。第三者がいる場合は第三者の権利を害せない(民法第909条) | やり直しの税金と登記 |
| 自分が取得する不動産を取り直したい | 取り直しには、他の相続人の合意が要る。合意が得られないとき、取消事由(錯誤・詐欺・強迫)があるかを、次の節で確かめる | 代償分割とは |
| 協議のあとで、新しい遺産が見つかった | これは、分割のやり直しではなく、見つかった遺産の追加の分割。民法第907条第1項は、遺産の全部又は一部の分割ができると定めている。協議書に、あとから見つかった遺産の扱いが書かれているかを見る | 遺産分割協議書の書き方、相続財産の調査と財産目録 |
| だまされた、脅された、思い違いをして合意した | 取り消せるか、いつまでか。次の2つの節で確かめ、弁護士に相談する | 相続の弁護士に無料で相談するには |
| 相続人の1人が亡くなっている | 誰が当事者になるか。「亡くなったとき」の節で確かめる | 相続人の範囲と法定相続分 |
| 話し合いがまとまらない | 最後の「話し合いがまとまらないとき」の節で、弁護士・家庭裁判所の案内を確かめる | 遺産分割調停とは |
全員の合意でやり直すときは、新たな遺産分割協議を、相続人全員でする形になります。
全員が合意したやり直しでも、税金は別に考えます。国税庁の質疑応答事例では、遺産分割を終えた財産は相続人の「完全な所有物」になっているという説明があり(譲渡所得の質疑応答事例「遺産分割後に認知を受けた者に遺産の一部を給付した場合の譲渡所得の課税」)、その財産を価額に代えて他の人に渡せば、代物弁済として譲渡所得の課税が行われるとされています。やり直しそのものを扱った事例ではありませんが、分割のあとで財産を別の人に移す場面では、贈与税や所得税が問題になりえます。相続税法第9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合に、贈与により取得したものとみなすと定めています。詳しくはやり直しの税金と登記にまとめました。
全員の合意が得られない場合でも、協議のときの意思表示に問題があったなら、取り消せることがあります。条文が定めていることと、遺産分割に当てはめた例を並べます。
取消しの理由ごとの、条文が定めていること
| 取消しの理由 | 条文が定めていること | 遺産分割に当てはめた例 |
|---|---|---|
| 錯誤(意思表示に対応する意思を欠く) | 法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき、取り消せる(民法第95条第1項第1号) | 書面の内容を取り違えたまま署名した、など |
| 錯誤(法律行為の基礎とした事情の認識が真実に反する) | 重要なものであるとき、取り消せる(同項第2号)。ただし、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限る(同条第2項) | 遺産の範囲や価額を思い違えて合意した、など。「税金は少ないと思っていた」という事情は、基礎とされていることが示されていたかが問われる |
| 錯誤が表意者の重大な過失によるもの | 原則として取り消せない。相手方が錯誤を知り、又は重大な過失で知らなかったとき、相手方が同一の錯誤に陥っていたときは取り消せる(同条第3項) | 全員が同じ思い違いをして合意していた、など |
| 詐欺・強迫 | 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる(民法第96条第1項)。第三者が詐欺を行った場合は、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限る(同条第2項) | 他の相続人が財産の存在を偽って説明した、脅されて署名した、など |
右の列は、条文の当てはめの例です。取り消せるかどうかは、事情と証拠で変わります。
取消権を持つのは、意思表示をした人、その代理人、承継人です(民法第120条第2項)。
追認すると、取り消せなくなります。取り消せる行為は、取消権者が追認したときは、以後取り消せません(第122条)。さらに、追認できる時以後に、取得した権利の全部又は一部の譲渡、全部又は一部の履行などをしたときは、追認したものとみなされます。ただし、異議をとどめたときは除かれます(第125条)。取り消すか迷っているときは、取得した財産の処分を急がず、弁護士に相談してください。
取消権の期間は、民法第126条が定めています。追認をすることができる時から5年間行使しないときは、時効によって消滅します。行為の時から20年を経過したときも同じです。
取消権の期間
| 数え始める日 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 追認をすることができる時(錯誤・詐欺に気づいた時、強迫の状況が止んだ時など) | 5年間 | 民法第126条、第124条第1項 |
| 協議をした時(行為の時) | 20年 | 民法第126条 |
追認の効力が生じるのは、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ取消権を有することを知った後です(民法第124条第1項)。5年と20年のどちらか早く来た方で、取消権は消えます。
この期間は、取消権の期間です。全員の合意でやり直す場合は第907条の協議にあたるため、この期間の対象ではありません。ただし、年数がたつほど、第三者の権利(民法第909条)や、税金の手続きの期限が絡みます。期限の数え方はやり直しの税金と登記で確かめられます。
亡くなった時期で、当事者が変わります。民法第896条は、相続人は相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定めています。
相続人の1人(Aさん)が亡くなったときの当事者
| Aさんが亡くなった時期 | 当事者になる人 | 根拠 |
|---|---|---|
| 協議が成立したあと。Aさんの錯誤・詐欺を理由に取り消したい | Aさんの承継人(Aさんの相続人)が取消権者になる | 民法第120条第2項 |
| 協議が成立したあと。全員の合意でやり直したい | Aさんの相続人が、Aさんの権利義務を承継して協議に加わる。Aさんの相続人が複数なら、その全員の合意が要る | 民法第896条、第907条第1項 |
| 協議が成立する前(協議の最中を含む) | やり直しではなく、はじめの協議。Aさんの相続人が加わって協議する | 民法第896条、第907条第1項 |
Aさんの相続人が誰かは、戸籍で確かめます。相続人の範囲と法定相続分は相続人の範囲と法定相続分の一覧にあります。
全員の合意が得られない、取り消しを主張しても相手が認めない、というときは、弁護士に相談して進め方を決めます。
取り消しが認められるかどうかの判断は、このサイトではできません。時効(前の節)が進んでいることもあるため、早めに弁護士へ相談してください。
やり直しが決まりそうなときは、分け方を決める前に、次の3つを確かめます。
3つの詳しい整理は遺産分割協議をやり直すと税金と登記はどうなるかにあります。更正の請求は相続税の更正の請求の書き方、払いすぎの戻り方は相続税の還付とはで確かめられます。分け方を決める前に、当初の協議書の写しを手元に出して、税理士に見てもらってください。
相続人全員が合意すれば、新たに協議し直す形でやり直せます。一部の相続人だけの合意では成り立ちません。また、協議のときに錯誤・詐欺・強迫があったなら、民法第95条・第96条により意思表示を取り消せる場合があります。第三者の権利を害することはできません(民法第909条)。
意思表示に対応する意思を欠く錯誤、又は法律行為の基礎とした事情の認識が真実に反する錯誤で、その錯誤が重要なものであるときです(民法第95条第1項)。事情を思い違えた場合は、その事情が基礎とされていることが表示されていたときに限ります(同条第2項)。重大な過失があると、原則として取り消せません(同条第3項)。
追認をすることができる時から5年間行使しないとき、又は行為の時から20年を経過したときは、取消権が時効で消滅します(民法第126条)。追認できる時は、取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ取消権を有することを知った後です(第124条第1項)。
亡くなった相続人の権利義務は、その人の相続人が承継します(民法第896条)。全員の合意でやり直すなら、その相続人が協議に加わります。錯誤・詐欺を理由に取り消す場合も、取消権は承継人が持ちます(第120条第2項)。
やり直せません。国税庁の質疑応答事例は、遺産分割は全ての相続人等の協議又は家庭裁判所の審判(調停)によって行われると説明しています。共同相続人の全員の合意が要ります。
かかる場合があります。相続税法第9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合に、贈与により取得したものとみなすと定めています。やり直しの理由や分け方で変わるため、やり直しの税金と登記で整理し、税務署か税理士に確かめてください。
遺産にかかる相続税は、先に計算機で確かめられます
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