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遺産を使い込まれたと感じたら、まず被相続人名義の預金口座の取引履歴(判決の言葉では「取引経過」)を取り寄せ、いつ・いくら・どこで引き出されたかを確かめます。最高裁は、共同相続人の1人が、他の共同相続人全員の同意がなくても、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を金融機関に求められると判断しています(平成21年1月22日第一小法廷判決)。そのうえで、引き出しが亡くなる前か後かで進め方が分かれます。亡くなった後の引き出しは、相続人全員の同意で、遺産分割のときに遺産として存在するものとみなせます。引き出した本人の同意は要りません(民法第906条の2)。亡くなる前の引き出しは、返還を求める権利(不当利得返還請求・不法行為による損害賠償請求)を相続人が承継する形で考えます(第703条・第709条・第896条)。請求できる期間は、不当利得なら知った時から5年・行使できる時から10年、不法行為なら損害及び加害者を知った時から3年・不法行為の時から20年です(第166条・第724条)。家族の間の窃盗・横領には刑法の特例があります(第244条・第255条)。この記事は条文・判例の原文で確かめた整理で、個別の事案の結論ではありません。疑われている側の方は、遺産の使い込みを疑われたときをご覧ください。
できることは4つあります。使うのは、1つとは限りません。
遺産の使い込みに対してできること
| 方法 | 使える場面 | 根拠 |
|---|---|---|
| 預金口座の取引履歴を取り寄せる | いつ・いくら・誰が引き出したかを知りたい。他の相続人の同意がなくても、共同相続人の1人が請求できる | 最高裁 平成21年1月22日第一小法廷判決 |
| 相続人全員の同意で、遺産分割のときに「遺産として存在する」ものとみなす | 亡くなった後に、遺産の預金などが処分された。処分した相続人の同意は要らない | 民法第906条の2 |
| 返還を請求する(不当利得返還請求・損害賠償請求) | 法律上の原因なく利益を受けた者への請求(第703条)。故意又は過失で権利を侵害した者への損害賠償の請求(第709条)。悪意の受益者は利息を付して返還する(第704条) | 民法第703条・第704条・第709条 |
| 刑事の告訴をする | 窃盗や横領にあたる場合。ただし、親族の間には特例がある(「刑事」の節) | 刑法第235条・第252条・第244条・第255条 |
どの方法が使えるかは、引き出された時期、引き出した人と被相続人の関係、証拠で変わります。このサイトでは個別の事案の判断はできません。
自分に近い行から見てください。どの行も、最初にすることは同じで、取引履歴で引き出しの日付・金額・回数を並べることです。
状況ごとの、先に確かめること
| あなたの状況 | 先に確かめること | 次に読むところ |
|---|---|---|
| 親と同居していた兄弟が引き出していた | 引き出した人が、被相続人から通帳の管理を頼まれていたか。頼まれていた場合、受任者は、委任事務の処理の状況の報告と、受け取った金銭の引渡しの義務を負う(民法第645条・第646条)。委任は、委任者の死亡で終了し(第653条)、終了後は遅滞なく経過と結果を報告しなければならない(第645条) | 本記事「取引履歴は取り寄せられますか」、兄弟で相続が揉めたら |
| 亡くなる前に引き出されていた | 返還を求める権利は、被相続人が持っていたものを相続人が承継する(民法第896条)。不当利得・不法行為のどちらで請求するかと、時効 | 本記事「亡くなる前と後で」「いつまでに請求できますか」 |
| 亡くなった後に引き出されていた | 相続人全員の同意で、遺産分割のときに遺産として存在するものとみなせる(民法第906条の2)。引き出した本人の同意は要らない | 本記事「亡くなる前と後で」、遺産分割調停とは |
| 金額が少ない | 条文に、請求できる金額の下限はない。取り戻せる額と、弁護士費用・手間を並べて進め方を決める。遺産分割の話し合いの中で、引き出された分を計算に入れる方法もある(第906条の2) | 相続の弁護士費用の相場 |
| 「親が自分にくれたお金だ」と言われた | 贈与か、使い込みかが争点になる。贈与は、書面によらない場合、履行の終わった部分は解除できない(民法第549条・第550条)。贈与を受けた人がいれば、特別受益として相続分の計算に入る場合がある(第903条) | 特別受益とは |
| 自分が疑われている | 引き出しの使い道を、領収書・記録で説明できるか。生活費・介護費用・葬儀費用との違い | 遺産の使い込みを疑われたとき |
取り寄せられます。最高裁は、平成21年1月22日の判決で、次のように述べています。
この判決の事案では、被相続人の死亡の前日・当日などの取引経過の開示が求められていました。どの期間まで出してもらえるかは、金融機関ごとに違うため、窓口で確かめます。必要な書類も金融機関ごとに違います。凍結解除の書類は相続した預金口座の凍結解除と払い戻し手続きが参考になります。
取引履歴で見るところ(筆者の整理)
| 見るところ | 分かること |
|---|---|
| 日付 | 亡くなる前か後か。入院・介護の開始の前後か。引き出しが、どの時期に集まっているか |
| 金額と回数 | 1回の額が大きいか、少額が続いているか。生活費や介護費用の支払いの周期と合うか |
| 引き出した場所・方法 | 窓口、ATM、口座振替、振込のどれか。振込なら、振込先の名義 |
| 定期預金の解約・名義変更 | 定期預金が解約されて、普通預金から出ていないか |
引き出された時期で、お金の位置づけが変わります。
引き出しの時期ごとの扱い
| 引き出された時期 | 考え方 | 根拠 |
|---|---|---|
| 亡くなる前 | 亡くなった時点で、すでに被相続人の財産から出ているお金。返してもらう権利(不当利得返還請求権・損害賠償請求権)を、相続人が承継する。金銭などの可分債権は、法律上当然に分割され、各共同相続人が相続分に応じて権利を承継する、というのが最高裁の判例 | 民法第896条、最高裁 昭和29年4月8日第一小法廷判決 |
| 亡くなった後 | 預金は、遺産分割の対象になる(相続人全員の合意の有無にかかわらず)。遺産分割の前に処分された場合でも、共同相続人は、全員の同意で、処分された財産が遺産分割のときに遺産として存在するものとみなせる。処分した人の同意は要らない | 最高裁 平成28年12月19日大法廷決定、民法第906条の2 |
亡くなる前の引き出しの、金額の例(計算の例で、実際の額は事案で変わります)。相続人が子のAさんとBさんの2人だけで、Bさんが被相続人の生前に600万円を引き出していたとします。子が2人なら相続分は相等しい(民法第900条第4号)ため、2分の1ずつです。上の判例の考え方を当てはめると、Aさんが相続分に応じて請求できるのは、600万円の2分の1の300万円と読めます。この判例は、預貯金債権については平成28年の大法廷決定で変更されていますが、使い込みで生じた返還請求権のような金銭の請求権にどこまで当てはまるかは、事案で変わります。弁護士に確かめてください。
亡くなった後の引き出しについて、遺産分割の調停・審判で扱えるかは、遺産分割の手続の中身にかかわります。調停の流れは遺産分割調停とは、遺産分割の協議の進め方は遺産分割協議書の書き方にあります。
返還を求める権利には、時効があります。数え始める日を間違えないように、2つの請求を分けて見ます。
請求の種類ごとの時効の年数
| 請求 | 期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 不当利得返還請求 | 債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年 | 民法第166条第1項 |
| 不法行為による損害賠償請求 | 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年 | 民法第724条 |
| 人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求 | 知った時から5年(20年は同じ)。預金の使い込みは、通常、これにあたらない | 民法第724条の2 |
数え始める日は、事案によって変わります。どの日を起点にするかは、取引履歴の日付と、いつ使い込みを知ったかで決まるため、弁護士に確かめてください。
時効が気になるときほど、取引履歴の取り寄せを先に済ませてください。いつ引き出されたかが分からないと、期間を数えられません。
他人の財物を窃取すれば窃盗(刑法第235条)、自己の占有する他人の物を横領すれば横領(第252条。5年以下の拘禁刑)、業務上占有する他人の物を横領すれば業務上横領(第253条)です。ただし、家族の間には特例があります。
親族の間の窃盗・横領の特例
| 関係 | 刑事の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 配偶者、直系血族(親子など)、同居の親族 | 刑を免除する | 刑法第244条第1項、第255条 |
| 上記以外の親族(別居の兄弟姉妹など) | 告訴がなければ公訴を提起できない | 刑法第244条第2項、第255条 |
| 親族でない共犯 | 特例は適用しない | 刑法第244条第3項、第255条 |
刑法第255条は、第244条の規定を横領の罪に準用すると定めています。
この特例は、刑事責任について定めたものです。民事の返還請求について定めたものではありません。どの罪名にあたるか、そもそも犯罪が成立するかは、引き出しの経緯で変わります。刑事の告訴をするかどうかは、返還を求める手続きとあわせて、弁護士に相談して決めます。
引き出した相手が認めない、使い道を説明しない、というときは、次の順に進めます。
使い込みは、取引履歴の読み方、時効の数え方、請求の手続きの選び方が絡み、法律の専門家(弁護士)に相談する場面です。相談先の探し方は、費用が心配かどうかで分かれます。
相談の前に、次を手元に出しておくと話が早く進みます(筆者の整理)。
返還を求める手続きはあります。亡くなる前の引き出しは不当利得返還請求・損害賠償請求(民法第703条・第709条)、亡くなった後の引き出しは、相続人全員の同意で、遺産分割のときに遺産として存在するものとみなせます(第906条の2)。実際に返ってくるかは、引き出しの経緯と証拠で変わります。弁護士に相談して確かめてください。
不当利得返還請求は、権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年です(民法第166条第1項)。不法行為による損害賠償請求は、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です(第724条)。数え始める日は事案で変わります。
取れます。最高裁は、共同相続人の1人は、被相続人名義の預金口座の取引経過の開示を求める権利を単独で行使でき、他の共同相続人全員の同意がないことは妨げにならないと判断しています(平成21年1月22日第一小法廷判決)。どの期間まで開示されるかは、金融機関に確かめてください。
窃盗(刑法第235条)や横領(第252条)にあたる場合があります。ただし、配偶者・直系血族・同居の親族の間では刑が免除され、それ以外の親族の間では告訴がなければ公訴を提起できません(第244条、第255条)。この特例は刑事責任についての定めで、民事の返還請求とは別です。
遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、共同相続人は全員の同意で、処分された財産が遺産分割のときに遺産として存在するものとみなせます。処分した相続人の同意は要りません(民法第906条の2)。
頼まれて管理していたなら、受任者は委任事務の処理の状況を報告し、受け取った金銭を引き渡す義務を負います(民法第645条・第646条)。贈与なら、書面によらない贈与は、履行の終わった部分は解除できず(第550条)、特別受益として相続分の計算に入る場合があります(第903条)。どちらにあたるかは、証拠で決まります。
遺産の総額がいくらで、相続税がかかるかは、先に計算機で確かめられます
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