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認知症に備える制度は、「どれがよいか」より先に「親の判断能力が今どの段階か」で使えるものが決まります。判断能力が十分なうちは、家族信託も任意後見契約も結べます。判断能力が不十分になってからは、結べるかどうかが個別の判断になり、欠けている状態になると家庭裁判所が成年後見人を付ける法定後見が中心になります。家族信託は信託した財産の管理・処分を託す仕組みで、生活や療養看護の契約まで託す任意後見・法定後見とは託せる範囲が違います。この記事では、段階別の早見表、親の状態別の考え方、法定後見と任意後見の中身、令和8年6月公布の改正、家族信託を選ぶ場合に決めておくことを順に確かめます。
民法は、後見開始の審判の対象を「事理を弁識する能力を欠く常況にある者」(第7条)、保佐開始を「著しく不十分である者」(第11条)、補助開始を「不十分である者」(第15条)と分けています。この段階と、家族信託・任意後見・法定後見の関係を並べます(筆者の整理です)。
判断能力の段階と、使える制度
| 判断能力の段階 | 家族信託 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|---|
| 十分なうち | 結べる | 結べる(公正証書) | 申立ての対象は、判断能力が不十分な方から |
| 不十分になってきた(補助の対象) | 契約の時点の意思能力で決まる。公証人が個別に判断 | 本人の判断能力がなければ締結できない。認知症というだけで直ちに欠けていると評価されず、公証人が個別に判断 | 補助 |
| 著しく不十分(保佐の対象) | 同上。意思能力がなければ契約は無効 | 同上 | 保佐 |
| 欠けているのが通常の状態(後見の対象) | 意思能力がなければ契約は無効(民法第3条の2) | 締結できない | 後見 |
家族信託の列は信託契約を結ぶ時点の話で、法定後見の区分は医師の診断名ではなく家庭裁判所の審判で決まります。公証人の個別の判断は、日本公証人連合会の任意後見契約のQ&Aによります。
任意後見は、判断能力が不十分になり、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力が生じる制度です(任意後見契約に関する法律第2条第1号・第4条)。法定後見の3区分と、続く期間は、法定後見の節で確かめます。
家族信託を使うかどうかは、託したいことが財産の管理・処分だけか、生活や療養看護の契約まで含むかで分かれます。3つの制度を並べます。
家族信託・任意後見・法定後見の違い
| 項目 | 家族信託 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|---|
| 始め方 | 本人と受託者の信託契約(信託法第3条第1号)。契約の締結で効力が生じる(第4条) | 公正証書で契約(任意後見契約法第3条)。家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時から効力 | 家庭裁判所の審判(民法第7条・第11条・第15条) |
| 託せること | 信託した財産の管理又は処分など(信託法第26条) | 生活、療養看護及び財産の管理に関する事務(任意後見契約法第2条第1号)。標準の代理権目録に、医療・入院・介護・施設入所の契約が入る | 後見人は財産を管理し、その法律行為を代表する(民法第859条)。生活、療養看護の事務も行う(第858条) |
| 不動産の売却 | 信託契約に従い、受託者が行う | 代理権目録に「不動産、動産等すべての財産の保存、管理及び処分」とする例がある。居住用不動産の処分を含めない例もよくある | 居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可が必要(民法第859条の3) |
| 誰が担うか | 本人が受託者を決める | 本人が選ぶ。成人であれば誰でもなれ、欠格の事由がある人はなれない | 家庭裁判所が選ぶ。令和7年は、親族16.4%、親族以外83.6% |
| 監督 | 受託者は帳簿を作り、年1回、受益者に報告する(信託法第37条) | 任意後見監督人が家庭裁判所に報告し、家庭裁判所が監督する | 家庭裁判所が監督する |
| 終わり | 契約書と信託法の定め(第163条など) | 監督人の選任前は、公証人の認証を受けた書面でいつでも解除できる。選任後は家庭裁判所の許可が必要 | 現行制度では、本人が回復するか亡くなるまで続く |
各欄の出典は末尾にあります。任意後見の代理権目録は公証人連合会が示す標準の例で、内容は契約で決められます。
家族信託が信託できるのは、信託した財産に限られます。生活や療養看護に関する契約(入院、介護サービス、施設入所)を結ぶ権限は、信託法第26条の財産の管理又は処分には含まれず、任意後見の代理権目録や法定後見の事務に入るものです(筆者の整理です)。
裁判所は、成年後見制度を「認知症、知的障害、精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない方について、本人の権利を守る人(後見人等)を選ぶことで、本人を法律的に支援する制度」と説明しています。最高裁判所の令和7年1月〜12月の概況に、申立ての動機と利用者数が載っています。
成年後見関係事件の申立ての動機(令和7年・終局事件42,674件に占める割合)
| 主な申立ての動機 | 件数 | 割合 |
|---|---|---|
| 預貯金等の管理・解約 | 39,871 | 93.4% |
| 身上保護 | 31,655 | 74.2% |
| 介護保険契約 | 19,502 | 45.7% |
| 不動産の処分 | 15,502 | 36.3% |
| 相続手続 | 10,909 | 25.6% |
| 保険金受取 | 7,578 | 17.8% |
1件の事件に主な動機が複数ある場合があるため、割合の合計は100%になりません。
令和7年12月末の利用者数は合計259,901人で、内訳は成年後見180,828人、保佐58,162人、補助18,078人、任意後見2,833人です。
後見人が居住用の不動産を売却、賃貸、抵当権の設定などで処分するには、家庭裁判所の許可が必要で、許可を得ない処分は無効になります(民法第859条の3、裁判所の説明)。実家の売却は実家を売れるようにする方法で手順を確かめられます。
成年後見制度の見直し(民法等の一部を改正する法律〔令和8年法律第45号〕)
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 区分 | 後見・保佐・補助の3つ。判断能力の程度で制度が決まる | 後見・保佐を廃止し、補助に一元化。本人に必要な事項について代理権・取消権を付与する |
| 利用の終了 | 後見・保佐は、事理弁識能力が回復しない限りやめられない | 利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、申立て又は職権で終了できる |
| 任意後見との関係 | 法定後見が始まると任意後見契約は終了する | 補助の制度の利用を始めても、任意後見契約の存続を許容する |
| 任意後見監督人 | 選任が必要 | 明らかに必要がないと認めるときは選任せず、家庭裁判所が直接監督できる |
| 施行 | ― | 公布(令和8年6月24日)から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日 |
出典:法務省民事局「成年後見制度に関する制度改正の状況について」令和8年7月。利用中の人は、基本的に現行法の内容で続けられるとされています。
任意後見契約は、公正証書でしなければなりません(任意後見契約に関する法律第3条)。日本公証人連合会は、公証人が作る理由を、委任者本人の意思と判断能力をしっかり確認し、契約の内容が法律に従ったものになるようにするためと説明しています。
任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決め、本人の財産から支払われます。任意後見人の報酬は、本人と受任者の話合いで決めます。改正後の任意後見の扱いは、前の節の表のとおりです。
家族信託を選ぶ場合は、託す財産と、託さない財産を分けて考えます(筆者の整理です)。信託した財産は受託者が管理しますが、信託しなかった預貯金や、医療・介護の契約は別の備えが要ります。家族信託で託す財産と、任意後見で託す生活・療養看護の事務を分けて備える組み合わせもあります。
受託者が負う主な義務(信託法)
| 義務 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 善良な管理者の注意 | 第29条 | 信託の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって信託事務を処理する(信託行為に別段の定めがあればその注意) |
| 忠実義務 | 第30条 | 受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をする |
| 分別管理義務 | 第34条 | 信託財産を固有財産と分けて管理する。登記できる財産は信託の登記で分別する |
| 帳簿の作成と報告 | 第37条 | 帳簿その他の書類を作り、毎年1回、貸借対照表や損益計算書などを作って受益者に報告する |
費用は家族信託の費用の相場、仕組みの全体は家族信託の仕組みとメリット・デメリットにあります。
契約は別々なので、両方を結ぶことはできます。家族信託で信託した財産は受託者が管理し、任意後見では生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を、契約で決めた範囲で任意後見人が行います。託す範囲が重ならないように、契約書で整理します。
家族信託は、信託した財産の管理又は処分などを受託者に託す仕組みです(信託法第26条)。生活や療養看護に関する契約を結ぶ権限は含まれないため、その契約を本人が結べなくなったときの備えは別に要ります。
家庭裁判所が選任します。候補者を書いても必ず選ばれるわけではないと裁判所は説明しています。最高裁判所の令和7年の概況では、選任された成年後見人等のうち、親族は16.4%でした。
法務省民事局の資料(令和8年7月)には、利用中の制度は基本的に現行法の内容で続けられると書かれています。新しい補助の制度に移りたい場合は申立てをし、利用を終えたい場合は審判の取消しの申立てができます。施行日は、公布から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日です。
信託は契約を結ぶと効力が生じます(信託法第4条第1項)。民法第3条の2は意思表示をした時に意思能力がないと無効としており、問われるのは契約を結んだ時点です。その後の変更や終了の扱いは契約書の定めで変わるため、結ぶ前に確かめます。
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