タワーマンションなどの分譲マンションは、これまで「時価より相続税評価額がかなり低くなる」ことを利用した相続税対策によく使われてきました。 国税庁はこの評価差を縮小するため、令和6年1月から新しい評価方法を導入しています。 この記事では、新ルール「区分所有補正率」の仕組みと計算方法を具体例で解説します。
従来の相続税評価では、マンションの建物部分は固定資産税評価額、敷地部分は路線価に敷地権の割合を乗じて計算するのが基本でした。 この方法では、高層マンションの上層階のように市場価格(時価)が高い部屋でも、 敷地利用権の割合が小さいために評価額が時価より大幅に低くなるケースが多く見られました。
国税庁の調査によると、マンション一室の相続税評価額は市場価格の平均で約4割程度にとどまっていたとされ、 一戸建てとの評価の差が問題視されていました。 令和5年9月28日、国税庁は「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)を公表し、 令和6年1月1日以後の相続・遺贈・贈与から新しい評価方法を適用することになりました。
なお、贈与についても同日以後に取得した居住用の区分所有財産から新ルールが適用されます。 生前贈与でマンションを渡す場合も評価方法が変わっている点に注意が必要です。 令和5年12月31日までに発生した相続・贈与については、従来どおりの評価方法(区分所有補正率を用いない方法)が適用されます。
新ルールでは、従来の方法で計算した評価額(区分所有権=建物部分、敷地利用権=土地部分)に、 それぞれ「区分所有補正率」を掛けて最終的な評価額を算出します。
居住用の区分所有財産の評価額 = 従来の方法による評価額 × 区分所有補正率
区分所有権(建物部分)・敷地利用権(土地部分)それぞれに適用
区分所有補正率を算出するには、まず「評価乖離率」を計算し、その逆数である「評価水準」を求め、 評価水準の範囲に応じて補正率を決めるという3段階の手順を踏みます。 不動産全般の基本的な評価方法(路線価方式・倍率方式)は「不動産の相続税評価額の計算方法」で解説しています。
評価乖離率は、時価と従来の相続税評価額の差(乖離)の度合いを示す指標で、次の式で算出します。
評価乖離率 = A + B + C + D + 3.220
4つの要素で「時価との差が生まれやすい部屋」を判定する
評価乖離率を構成する4要素
| 要素 | 内容 | 計算方法 |
|---|---|---|
| A | 一棟の建物の築年数 | 築年数 × △0.033 |
| B | 一棟の建物の総階数指数 | 総階数(地階除く)÷ 33 × 0.239(1を超える場合は1) |
| C | 専有部分の所在階 | 所在階 × 0.018(地階の場合は0) |
| D | 敷地持分狭小度 | (敷地利用権の面積 ÷ 専有部分の面積)× △1.195 |
築年数が浅く(Aの数値が小さい)、総階数が高く(Bが大きい)、所在階が高く(Cが大きい)、 敷地に対する専有面積の割合が小さい(Dの絶対値が大きい)ほど、評価乖離率は大きくなる仕組みです。 これはタワーマンション上層階に典型的な特徴と一致しています。
評価乖離率が計算できたら、その逆数である「評価水準」を求めます。
評価水準 = 1 ÷ 評価乖離率
評価水準の値によって、区分所有補正率の適用方法が3パターンに分かれます。
評価水準と区分所有補正率の対応
| 評価水準 | 区分所有補正率 | 意味 |
|---|---|---|
| 0.6未満 | 評価乖離率 × 0.6 | 時価に対して評価額が低すぎるため引き上げる |
| 0.6以上1以下 | 補正なし | 従来の評価方法のまま(適正範囲) |
| 1超 | 評価乖離率 | 評価額が時価を超えているため引き下げる |
国税庁が公表している計算例をもとに、築27年・11階建てのうち3階、専有面積60㎡のマンションで確認します。
計算例(築27年・総階数11階・所在階3階・専有60㎡・敷地利用権面積21㎡)
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| A(築年数27年) | 27 × △0.033 | △0.891 |
| B(総階数11/33) | 11÷33(小数点以下4位切捨て)× 0.239 | 0.079 |
| C(所在階3階) | 3 × 0.018 | 0.054 |
| D(敷地持分狭小度21/60) | 0.35 × △1.195 | △0.418 |
| 評価乖離率 | △0.891+0.079+0.054△0.418+3.220 | 約2.044 |
この場合、評価水準は1÷2.044≒0.489となり0.6未満のため、区分所有補正率は「評価乖離率×0.6」=約1.226となります。 従来の評価方法で計算した建物・敷地の価額に、この補正率を掛けたものが最終的な相続税評価額です。 不動産の評価額が固まったら、遺産全体に占める割合を「遺産額別 相続税早見表」で確認すると全体像がつかみやすくなります。 複数の部屋を所有している場合は、部屋ごとに築年数・所在階・専有面積が異なるため、一室ずつ個別に評価乖離率を計算する必要があります。
次に挙げる物件は、居住用区分所有財産の評価に関する新通達の対象外となり、従来の評価方法がそのまま使われます。
区分所有者が一棟の建物内のすべての専有部分と敷地の両方を単独で所有している場合、 敷地利用権に係る区分所有補正率は1が下限とされています。つまり、この場合の敷地利用権は補正によって評価額が下がることはありません (建物部分にあたる区分所有権の補正率には、このような下限はありません)。 一室だけを所有する通常のマンションでは、このルールは適用対象外です。
この新ルールが導入された背景には、高層マンションの高層階を購入して評価額を大きく圧縮する 「タワーマンション節税」への対応があります。評価乖離率の計算式は、築年数が浅く総階数が高いタワーマンションの 高層階ほど評価額を引き上げる方向に働くよう設計されているため、これまでのような大幅な評価差を利用した対策の効果は 縮小しています。ただし完全になくなったわけではなく、評価水準が0.6以上のマンションでは補正が入らないため、 物件によって影響の度合いは異なります。
Q. マンションの新しい評価方法はいつから適用されますか?
A. 令和6年(2024年)1月1日以後に相続・遺贈・贈与により取得した「居住用の区分所有財産」から適用されています。それより前に発生した相続については従来の評価方法(固定資産税評価額・路線価方式)がそのまま適用されます。相続開始日が令和6年1月1日より前かどうかで適用ルールが変わるため、まず相続開始日を確認してください。
Q. 新ルールが適用されないマンションはありますか?
A. 事業用のテナント物件、区分建物登記がされていない一棟所有の賃貸マンション、総階数2階以下の低層集合住宅、専有部分が3室以下でそのすべてを区分所有者や親族が使う二世帯住宅などは、本通達の適用対象外です。これらに該当する場合は、従来どおり固定資産税評価額や路線価をもとにした方法で評価します。
Q. 評価額が上がるマンションと下がるマンションの違いは何ですか?
A. 築年数が浅く、総階数が高く、所在階が高く、敷地に対する専有面積の割合が小さい(タワーマンションの上層階など)マンションほど評価額が上がりやすい傾向があります。逆に低層・築年数が古い・敷地持分が大きいマンションでは評価額への影響は小さくなります。評価水準が0.6以上1以下であれば補正自体が入らず、従来の評価額のままになります。
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