基礎知識 2026年5月5日 読了 約8分
農地・山林を相続したら?評価額の計算と納税猶予制度の使い方
農地や山林を相続した場合、一般の宅地とは異なる評価方法が適用されます。
また農業を継続することを条件に相続税の納税を猶予できる「農業投資価格による納税猶予制度」があります。
この記事では、農地・山林の評価方法と、管理が難しい場合の選択肢まで解説します。
1. 農地の相続税評価(4種類)
農地の評価方法は、農地の立地・利用状況・転用の可能性によって4種類に分類されます。
国税庁の統計によると、2022年に相続税の申告があった被相続人は約15万人で、課税された割合は死亡者全体の約9.6%です。
農地の4区分と評価方法
| 区分 | 概要 | 評価方法 |
| 純農地 | 農業専用地域内・農用地区域内の農地 | 倍率方式(低評価) |
| 中間農地 | 純農地・市街地農地のどちらでもない農地 | 倍率方式 |
| 市街地周辺農地 | 市街地に近接する農地(転用可能性あり) | 市街地農地の80%相当額 |
| 市街地農地 | 市街化区域内の農地(転用容易) | 宅地比準方式または倍率方式 |
純農地・中間農地は農業用途での利用が前提のため評価額は低めです。
一方、市街地農地は宅地並みの評価になることが多く、評価額が高くなります。
2. 農業投資価格と納税猶予制度
農地を相続して農業を継続する場合、「農業投資価格」という特別の低い評価額で相続税を計算し、
通常の評価額との差額分の相続税の納税を猶予してもらえる制度があります。
納税猶予制度の概要
- 相続人が農業を継続(または農地を農業後継者に生前一括贈与等)する限り、猶予された税額の納付が免除される
- 農業委員会の証明書の取得・農業相続人の申請が必要
- 申告期限(相続開始から10か月以内)までに申請が必要
猶予が取り消されるケース:農業をやめた・農地を売った・農地を転用した場合などは
猶予が取り消され、猶予されていた税額と利子税を一括納付しなければなりません。
農業を継続できるかどうかを十分に考えた上で申請してください。
農業相続人の要件:相続開始時から申告期限までに農業を開始していることが必要です。
また取得した農地等を農業の用に供することが要件となります。
3. 山林の評価方法
山林の相続税評価も農地と同様に立地・利用状況によって区分されます。
山林の3区分と評価方法
| 区分 | 概要 | 評価方法 |
| 純山林 | 市街地から離れた山林 | 倍率方式(低評価) |
| 中間山林 | 純山林・市街地山林のどちらでもない山林 | 倍率方式 |
| 市街地山林 | 市街化区域またはその周辺の山林 | 宅地比準方式または倍率方式 |
山林上に生育する立木(樹木)の評価は、山林の評価とは別に「立木の評価額」として計算します。
立木は「林業経営」の実態がある場合とない場合で評価方法が異なります。
4. 農地・山林の相続で許可が必要な場合
農地の相続は農地法上の「農業委員会の許可」は原則不要ですが、
相続後に農地を売却・転用する際には許可が必要になります。
農地の権利移転に必要な手続き
- 農地を売買・賃貸する場合:農業委員会の許可(農地法3条)
- 農地を住宅地・駐車場など農業用途以外に転用する場合:農業委員会(または都道府県知事)の許可(農地法4条・5条)
- 市街化区域内の農地:農業委員会への届出で足りる(許可不要)
農地の相続登記:農地は相続によって取得した場合、農業委員会への届出が必要です(農地法3条の3)。
相続から10か月以内に届け出ることが義務付けられています。
5. 売却・転用する場合の手続き
農地を売却する場合は農業委員会の許可が必要です。
許可の条件として、買主が農業を行うことが原則です(農家・農業法人など)。
農地を宅地等に転用してから売却する場合は、都道府県知事等の転用許可が必要です。
山林の売却には特別な許可手続きは不要ですが、
山林の開発・用途変更には都市計画法・森林法等の規制が適用される場合があります。
納税猶予を受けた農地の売却:農業投資価格による納税猶予を受けた農地を売却すると、
猶予されていた相続税と利子税を一括で納付する必要があります。
売却前に税理士・農業委員会へ相談することを推奨します。
6. 相続土地国庫帰属制度(不要な土地を国に返す)
2023年4月から、相続または相続人への遺贈で取得した土地を国に帰属(返還)できる
「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。
制度の概要
- 相続または遺贈により取得した土地が対象(売買で取得した土地は対象外)
- 法務局(法務大臣)への申請が必要
- 審査を経て承認された場合、一定の「負担金」を納付することで国へ帰属させられる
- 負担金の目安:農地・山林などは10年分の管理費相当額
帰属できない土地の主な例
- 建物が建っている土地
- 担保権(抵当権等)が設定されている土地
- 通路その他の用途に供されている土地
- 土壌汚染・地下埋設物がある土地
- 境界が不明な土地
負担金の目安:農地(田・畑)は20万円、山林は概ね面積に応じた額が目安です。
ただし市街化区域内の農地や特定の地目は計算方法が異なります。
申請前に法務局や土地家屋調査士に相談することをお勧めします。
7. 管理しきれない場合の選択肢
農地・山林は相続しても管理が難しく、固定資産税の負担だけが続く「負動産」になりうるリスクがあります。
管理できない場合の主な選択肢を整理します。
- 農業委員会を通じた売却・貸し付け:農地中間管理機構(農地バンク)への貸し付けで地代収入を得ながら管理を委託する
- 転用して売却:宅地・駐車場等への転用許可を取得した上で売却(許可取得の手間がかかる)
- 市区町村や公共団体へ寄附:自治体が受け入れる場合は寄附可能(多くの場合は受け入れを断られる)
- 相続土地国庫帰属制度の活用:条件を満たす場合は国に返還する
- 相続放棄:農地・山林以外の財産も放棄することになるため慎重に判断が必要
どの選択肢が最適かは、農地・山林の立地・状況・他の財産との関係によって異なります。
相続専門の税理士・司法書士・土地家屋調査士などに総合的に相談することをお勧めします。