手続き 2026年5月5日 読了 約8分
相続放棄すべき?借金がある相続の判断基準と3か月以内の手続き方法
親が亡くなったとき、財産よりも借金が多いかもしれないと気づいたら、どうすればよいでしょうか。
相続放棄は「すべての財産と負債を引き受けない」という選択肢です。
ただし期限は3か月以内。この記事では、相続放棄の仕組み・判断基準・手続きの流れを解説します。
1. 相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の財産と負債のすべてを引き受けない意思表示です。
民法では、相続人には財産を受け継ぐ「単純承認」・財産の範囲内で負債を引き受ける「限定承認」・
すべてを放棄する「相続放棄」の3つの選択肢が用意されています。
最高裁判所の司法統計によると、相続放棄の申述受理件数は年間26万件前後で推移しており、近年増加傾向にあります。
相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったものとみなされます。
これは法的な概念であり、「財産だけもらって借金は放棄する」ということはできません。
プラスの財産もマイナスの財産(借金・未払い税金・連帯保証債務など)も、
すべてを一括して放棄することになります。
重要:相続放棄の期限は「自己のために相続の開始があったことを知った時」から
原則3か月以内です。この期限を過ぎると単純承認(すべての財産と負債を引き受ける)したものと
みなされます。
2. 限定承認との違い
限定承認とは、「相続した財産の範囲内でのみ負債を引き受ける」という方法です。
受け継いだ財産の価値の分だけ借金を払い、財産を超える部分の借金は支払わなくてよくなります。
相続放棄
- 財産も負債もすべて放棄
- 個人で申請できる(各相続人が単独で行える)
- 手続きが比較的シンプル
- 財産が一切もらえない
限定承認
- 財産の範囲内で負債を引き受ける
- 相続人全員で共同申請が必要
- 手続きが複雑・費用がかかる
- 財産が残れば受け取れる可能性あり
限定承認は「借金がどれくらいあるかわからないが、財産が残れば受け取りたい」という場合に
有効な手段です。しかし相続人全員の合意が必要なため、相続人が複数いる場合は調整が難しく、
実際の利用は少ないのが現状です。
3. 相続放棄すべきケースの判断基準
相続放棄を検討すべき主なケースを整理します。ただし個別の状況によって判断は異なるため、
弁護士・司法書士への相談を強くお勧めします。
放棄を検討すべきケース
- 借金・連帯保証債務が財産を明らかに上回っている
- 被相続人が消費者金融などからの借入を残している
- 不動産はあるが売れそうになく、固定資産税・管理費の負担が大きい
- 被相続人との関係が疎遠で財産の全容がわからない
放棄しないほうがよいケース
- プラスの財産が明らかに負債を上回っている
- 自分が相続放棄すると次の相続人(兄弟・甥姪など)に借金が回ってしまう
- 被相続人と同居しており、生活に必要な財産が含まれている
知っておきたい点:自分が相続放棄すると、
相続権が次の順位の相続人(先順位がいなければ親、その次に兄弟姉妹)に移ります。
家族全体で相続放棄するかどうかを事前に話し合うことが重要です。
4. 3か月以内(熟慮期間)に何をすべきか
熟慮期間の3か月は、財産・負債の全容を把握して相続方法を決めるための期間です。
この間に次のことを調べましょう。
- 預貯金・不動産・有価証券などプラスの財産の調査
- 借入金・クレジットカードの残高・連帯保証の確認(金融機関への問い合わせ・信用情報機関の照会)
- 未払いの税金・公共料金の確認
- 遺言書の有無の確認(公証役場での遺言検索・自宅の捜索)
期間延長の申立:3か月では財産の全容が把握できない場合、
家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申立てることができます。
正当な理由があれば期間を延長してもらえます。期限直前に気づいた場合でも諦めずに申立てましょう。
5. 家庭裁判所での手続きの流れ
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述書を提出して行います。
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1
必要書類を収集する 申述書・被相続人の死亡戸籍謄本・申述人の戸籍謄本(続柄によって異なる)・収入印紙800円分・郵便切手(裁判所により異なる)
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2
申述書を作成・提出する 裁判所のWebサイトから申述書の書式を入手できます。郵送でも提出可能です。
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3
家庭裁判所が内容を確認する 照会書が届いた場合は回答書を送付します。未成年者の場合は親権者が手続きします。
-
4
相続放棄申述受理通知書が届く 受理されると「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これが相続放棄が認められた証明になります。
受理通知書 vs 受理証明書:通知書は自動的に届きますが、
債権者(金融機関など)に相続放棄を証明する場合は、別途「相続放棄申述受理証明書」を
裁判所に申請して取得する必要があります(手数料150円)。
6. 相続放棄後に注意すること
財産の管理義務が残る場合がある
相続放棄をしても、次の相続人が財産の管理を始めるまでの間は、
相続放棄した人も「自己の財産におけるのと同一の注意」をもって財産を管理する義務があります
(民法940条)。
特に不動産を放棄する場合、放置することで近隣に損害を与えてしまうリスクがあります。
生命保険金・死亡退職金は受け取れる
相続放棄をしても、受取人として指定されている生命保険の死亡保険金や雇用主からの死亡退職金は
受け取ることができます。これらは「みなし相続財産」として相続財産ではなく受取人固有の財産と
みなされるためです。
注意:ただし相続放棄した人が生命保険金を受け取ると、
相続税の計算上「500万円×法定相続人数」の生命保険の非課税枠は適用されません。
7. 相続放棄できない場合(単純承認とみなされるケース)
以下の行為をした場合、「単純承認」をしたとみなされ、その後に相続放棄をすることができなくなります。
単純承認とみなされる主な行為: - 相続財産を消費・処分した(現金を使った、不動産を売却したなど)
- 相続財産を隠したり、財産目録に故意に記載しなかった
- 熟慮期間(3か月)が経過した(特別な事情がない限り)
一方、次の行為は単純承認にはなりません。
- 被相続人の通帳を確認するなど財産の調査・把握
- 葬儀費用を相続財産から支出すること(常識的な範囲内)
- 腐敗しやすい財産を処分すること
- 生命保険金・死亡退職金の受け取り(固有財産のため)
「これをしたら単純承認になるのか?」と判断に迷う場合は、
相続放棄の申述をする前に弁護士・司法書士に相談することを強くお勧めします。